翌日、内藤は喫茶店バーボンハウスにむかった。
隅っこのテーブルには既に先生、ドクオ、ギコが座っていた。

やぁ、おはよう内藤
おはようだお先生。しぃさんはどうなったお?
病院だ。しぃは弾が貫通した程度ならすぐ直るんだがな。体の中で折れたり刺さったりすると時間がかかるんだ
じゃあ北海道へはいけないんだな
ああ。北海道へは私と内藤。そして・・・置いていくつもりだったがドクオにも来てもらおう
置いてくつもりだったのかよ・・・
生徒を連れていきたくはないが・・・あのバイクを見るとそうも言えんからな

バーボンハウスで朝食をとった一行は喫茶店の前にあつまった。
車に内藤とショボンがのりこみ、ドクオは自分のバイクに乗り込む。

土産買ってこないとぶち殺すぞ
なんだと?買ってきてやるから1万円くらいよこせ
俺はいけないが、つーを頼む。無事に帰ってこいよ
お前がきても役にたたんと思うぞ
・・・まぁ、そうだな。俺はしぃについてるよ
ところで先生、学校はどうするんだお?
手続きは済ませてある。親御さんにも研修だと連絡ずみだ
俺は?
お前は不良だし別にいいだろう。留年しないように祈ってるんだな
ちょwwwそれはねーよwwww

喫茶店前で別れの挨拶を済ませ、ショボンは車をだした。
ドクオもぶつぶつ文句を言いながら追いかける。
高速にのり、警察に目をつけられないかヒヤヒヤしながら、ショボンのRX-8とドクオスペシャルは北海道へ急いだ。

北海道、旭川。
内藤たちは1日と半かけて、目的地にたどり着いた。
流石商事というビルはニュー速市でギコが調べ、すでに住所を特定していた。
内藤たち3人は、静かな住宅街のはずれに目立たず建っている流石商事のビルの前でカップラーメンを食べていた。

しかし・・・ビルっていっても3階までしかないじゃないか
ハムッ!ここにつーさんがいるのかお?ハフハフ、ハフッ!!
なんでカップ麺でそんな音が・・・
・・・食い終わったらいくぞ

流石商事の入り口は二階にある。
1階には扉どころか窓すらない、変わった造りになっていた。
二階のドアには鍵がかかっていない。
先頭のショボンが、そっとドアを開けて中にはいる。
中は机が一つあるだけで、空っぽだった。

誰もいないか
逃げたのか?
呼んどいて逃げるかお?
逃げたわけではないようだな

ショボンが机に歩いていく。
机の上にはメモ帳があった。ページをめくったままおかれている。
開いたページには走り書きで、”机を動かせ”と書いてあった。

机・・・ってのは
机は一つしかないお。動かしてみるお?
よっこらせっくす!
おまwwww掛け声wwww

机を動かすと、スライド式の扉があった。
用心してその扉を開けると、1階に下りる階段が現れる。
敵がいないのを確認して1階に下りると、コンクリートむき出しの殺風景な空間に、大型のエレベーターがあった。

エレベーター・・・地下まで来いという事か
地下か・・・罠の匂いがプンプンするな
ドクオ、念のためにバイクをもってこい。エレベーターをでたとたん蜂の巣にされるなんてのは御免だからな、盾にする
んなこと言ってもどうやってここまで持ってくるんだよ
壁ぶち破れ
ちょwwwww
ちょwwwww

一旦、外に出る。
壁を破るとなれば、大きな音がするだろう。
そうなれば警察がここに来るはずだ。
その時にもって行かれるのが嫌なのだろう。ショボンはRX-8を近くの有料駐車場にとめに言った。
その間にドクオが壁を壊す算段をはじめる。

・・・やっぱ一撃くれなきゃダメだろうなぁ。無駄弾撃ちたくないのに・・・

ため息をついて、バイクのコンソールに指をはしらせる。 車体後部からでてきた砲身から10mm鋼製徹甲弾が打ち出され、コンクリートの壁を貫いた。
砲撃でできた穴に全速で突っ込み、壁を打ち破りビルの1階にはいる。

・・・通報されないだろうな
されると思うお・・・
待たせた。しかし最近の駐車場はなんであんなに高いんだろうな

車をおいてきたショボンが戻ってきた。
エレベーターの扉を開き、ドクオを最後にエレベーターに乗る。
ボタンは2つしかなかった。
1階と、地下―――50階。

長いな・・・
地下50階だからな
それにしても地下50階なんて場所になにがあるんだお?
建物も偽装のようだし、それに加えて地下50階となると・・・
人の目に付けたくないもの、だな
・・・

危ない薬の工場、麻薬や銃の倉庫、汚い金の保管場所。
そして、もしかしたら・・・牢屋や拷問室、処刑場。
内藤の脳裏に、非道の限りを尽くされたつーの姿が浮かんだ。
そして、ツンの姿も。

内藤は頭をふってそのイメージを振り払ったが、どうしても悪い想像をする自分を止められなかった。

エレベーターが音をたてて停止する。
地下50階に着いた。エレベーターの窓からは暗闇しか見えない。
エレベーターの扉が開いていく。
ショボンと内藤はドクオスペシャルの後ろに隠れ、ドクオはドクオスペシャルの前面装甲を展開させ攻撃に備える。
だが、いつまでたっても銃撃はおろか、人の声すらしない。

・・・
・・・
・・・?なにもないお?

エレベーターの扉が閉まる。
慌てて開くボタンを押し、とりあえず外に出てみた。
靴の響く音からして、かなり広い空間のようだ。
ドクオがライターをとりだし、あたりを照らす。
壁際にあったスイッチを押すと、電灯がついた。電灯がついたその空間は、地下鉄のホームのようだった。
円筒状の穴が両脇に2つ、遥か遠くまで続いている。
うち1つには何か大きなロケットのようなものが収まっていた。
それ以外には何もない空間に、1つだけこの場に似合わないものがある。

内藤たちの目の前に、安物のテレビデオが置いてあった。

・・・テレビデオだな
・・・だよなぁ
・・・つけてみるお?

三人は、恐る恐るテレビデオに近づく。
爆発するブービートラップだったら洒落にならないので、ドクオスペシャルを盾におっかなびっくり。

爆発とかしないお?
まぁ、任せろ

ドクオがコンソールに指を走らせると、ドクオスペシャルのライトのあたりから作業用の小さなアームが出てくる。
そのアームが器用にテレビデオのスイッチをいれた。

・・・もうその程度では驚くまい・・・

青い画面が切り替わり、テープの再生が始まった。

再生が始まっても、画面は真っ暗だった。

ん?弟者、映らないぞ、これ
兄者。そこじゃない、右だ右
おお、こっちか。これとこれを接続して・・・と

真っ暗な画面にノイズが走り、兄者の姿が映し出される。
手持ちの家庭用カメラのようだ。姿が見えないところを見ると弟者が撮影しているのだろう。

んっ、あー、テステス。撮れてるか?
むしろもう回ってるぞ、兄者。さっさとはじめろ
ぶっつけ本番か・・・

兄者が歩き、カメラがそれを追う。
どうやら撮影場所は流石商事の2階のようだ。
兄者が、布をかぶせられた何かの前で足を止める。

さぁ、ショウタイムだ

兄者が布を取ると、後ろ手に縛られ、猿轡をされたつーが現れた。

んーっ!んっ!むー!

身動きの取れないつーが映し出され、見ているしかない内藤たち三人は顔を強張らせる。
これから起こるであろう非道な行いを想像し、内藤は眉をよせた。
だが、兄者の次の行動は想定の範囲外だった。
つーに何かが書かれた紙を見せたのだ。
その紙を読み、つーが頷く。
それを確認すると、兄者は猿轡をとった。

ぷはっ!・・・なにをするつもり?

兄者はメモ帳を取り出し、それを読みながら声をかける。
あれは、台本・・・だろうか。
同じものがつーに手渡される。

ひっひっひ。とても人に言えないことさ

ごく自然に喋っていたが、兄者はメモ帳を読み続ける。
その様子は内藤たち三人の想像とはかけ離れたものだった。

・・・?なに読んでんだ?

兄者の様子をバカを見る目で見ていたつーに、兄者がメモを1枚破り何か書いてつーにわたす。
渡されたメモ帳を読んで、つーは自分のメモ帳を読み始めた。

い、いや。近寄らないで!
ふふ、そんなことを言っても動けまい

動けまい、といいつつ、兄者は音が立たないように気をつけながら、つーの腕を縛る縄を解く。
再びメモ帳を破り、つーに渡す。
それを読んだつーは首を傾げた。読み終えて机に置いたメモが落ちていき、途中で文字が書かれたほうが画面に映る。
そのメモには走り書きで”非礼を詫びる”と書かれていた。

どういうつもりだ・・・?
やめて!触らないで!
そんなことを言ってもここはこんなになっているぞ?
う、嘘よ!いやぁ!

声だけ聞いていれば、内藤たちは怒りに身を震わせていただろう。
だが、画面の中で腰を下ろし、メモ帳を読みながらそんなやりとりをされると疑問しか沸いて来ない。

何やってるんだお?
・・・演技、か?
ん・・・カメラが置かれたぞ

兄者とつーを画面に捕らえたままカメラが置かれ、弟者が画面に登場する。
その手には、何枚かの画用紙があった。

・・・やめて、私初めてなのに・・・
ええぃ、黙れ黙れ

弟者はなおも芝居を続ける二人の後ろに回り、一枚目の画用紙を掲げた。
ショボンがそれを読み上げる。

ロシア、ラウンジ山の麓・・・赤十字の岩から東に200メートル・・・?

だんだんと台詞が過激になっていく二人の後ろで、弟者は次々に画用紙を取り替えていった。
その内容は、まず流石商事からロシアまでの直通便の説明。
その2、つーには危害を加えず、安全な場所で開放する。
その3、ロシアについたらアスキーアートという街の荒巻を訪ねろ。
その4、ツンは無事。地下3階、A-301に幽閉。
その5、このビデオを見ても、我々を味方だと思うな。

それで、画用紙は最後だった。
二人の芝居が聞くに堪えない淫語で溢れかえったあたりで、ビデオに突然ノイズが走る。
どうやら伝えることはあれで全部だったらしい。

どういうことだ・・・
罠・・・って雰囲気じゃねぇよな
ロシアへの直通便って・・・あれかお?

内藤が指差したのは、円筒状の穴に納まるロケットらしきもの。
三人はそれに近づく。
ロケットのまん中にある扉にあるプレートに、名前が書いてあった。

ロケット列車・クドリャフカと。