俺たちの高校・・・VIP高校の創始者だけが持っていた能力・・・

人の持ちうる最高の能力。
思い描いたイメージを現実のものにし、自在に使いこなす能力。
Variable Infinite Probability。
無限の可能性を現実のものとするその能力は、頭文字をとりV.I.Pと呼ばれた。

その能力を使えるものをVIPPERとよぶ・・・

内藤の身体強化は、VIPという能力の漏れ出した結果にすぎない。
今こそ内藤は、書き連ねた妄想設定集の内容を全て扱うVIPPERとなった。

お、おお?選択肢が湯水のようにだお・・・?
ん?なにをいってるんだ?・・・私の手が・・・?

内藤の首を絞めるジュルジュの手が、ジョルジュの意思とは関係なくひらいていく。
開放された内藤はよろめきながら着地した。
体中の痣が消えていき、内藤のダメージが回復する。

・・・VIP・・・かお

自分の右手を見る。
ホライゾンが消えたときから光を失ったようだった手甲が、再び輝いたように見えた。

覚悟するおジョルジュ長岡・・・!お前がどんな能力を使おうが、もう通用しないお!
なにを訳のわからんことを・・・!どうやって手を解いたのかは知らんが、死ぬのは貴様だ!

内藤の身体強化率が跳ね上がる。
拳を繰り出すジョルジュにあわせ、同じように拳を打ち出した。
内藤とジョルジュの拳が激突し、ジョルジュがわずかに後退さる。

なんだと・・・!
これで力は互角だお・・・
まさか・・・創造のスキルか・・・貴様が、VIPPER・・・?
そうだお。僕のクオリティみせてやるお!

内藤の蹴りがジョルジュに決まる。
なんのダメージも受けない強固な肉体をもつはずのジョルジュは、そのたった一撃の蹴りで意識が飛びかけた。

ば、馬鹿な・・・!なぜたった一発のキックで・・・!
まだまだ!今のは先生の分だお!次はギコさんの分!

続く拳撃がガードごとジョルジュを殴り飛ばし、ジョルジュの体が屋上に転がる。
よろよろと立ち上がるジョルジュに向かって内藤は駆け出した。

ぐ・・・私は地上最強のジョルジュ様だ!なめるなよ!!

ジョルジュのダメージが再生によって回復する。
身構えたジョルジュは全力で、内藤を迎え撃った。

あれが内藤かよ・・・信じらんねぇ
まったくだ。まぁ・・・そのおかげで無事に帰れそうだがな
だが・・・ダメージを与えても回復しているぞ。終わるのか?
いや・・・どうやら底が見えはじめたようだぞ

内藤とジョルジュは足をとめ、防御も回避も考えずに殴り合っていた。
殴られるたびに骨が砕けるが、すぐに回復する。

無駄無駄無駄無駄ぁっ!!
おらおらおらおらだお!!

どれだけ打ち合っただろう。
いつのまにか、ジョルジュのダメージが回復していない。
再生が止まっていた。内藤の手が止まる。

そこまでだお。降伏するお・・・
な、なんだとぉ・・・まだ私は戦えるぞ・・・

ジョルジュの体にはもう能力を使える体力は残っていない。
だというのに、力のはいっていない拳を内藤にたたきつけている。

なぜそこまでするお・・・そんなに能力を集めていったい何に使うんだお?
私は・・・褒めてもらうのだ・・・お前は完成体だと・・・褒めて・・・
なぜこんな所で無様をさらしているのだ私は・・・私は成功したんだぞ・・・
だが、完成はしなかった。研究者たちはVIPの能力を再現したかったのだからな・・・

いつの間にか、ショボンがドクオに肩を借りて内藤の隣にきていた。
その後ろにはしぃ達やツン、ギコがいる。

うるさい!私は成功した実験体として褒めてもらいたかっただけなのに・・・なぜこうなるのだ・・・!
いくら能力を集めても褒めてはもらえんよ。研究者たちはお前が殺したんだからな
黙れ・・・!

ジョルジュが数歩下がる。
内藤はもう追わなかった。

かくなる上は・・・貴様らも道連れにしてやる

ジョルジュは大きく顎を開いた。
力を込めて、自分の奥歯を噛み砕く。
ジョルジュの歯に仕込まれた装置が破壊され、どこかで基地にむけてミサイルが発射された。

道連れ・・・?
何も起こらないようだが
すぐにわかるさ。すぐにな!

狂気に満ちた顔でジョルジュは軍服の懐にあった拳銃を抜き放った。
銃口の先にはツンがいる。
しぃ達が弾丸を防ごうと立ちふさがるが、この距離では間に合わない。

死・・・!
させるかお!

内藤はジョルジュに駆け出していた。
無意識のうちに体が動く。
両手を広げ、人生で一番早く内藤は走っていた。

おおおお!!

自分に迫る内藤を意に介さず、引き金の指に力を込める。
斜線上に内藤が躍り出て、指がひかれる前にジョルジュに突進した。

ブーーーーーン!!!!
ぐぉっ・・・私は・・・褒めて・・・

内藤に激突されたジョルジュは突き飛ばされ、屋上のフェンスを破り空中に舞った。
どこか遠い目をして、落下していくジョルジュは呟く。

あの場所で・・・もう一度・・・

地面に激突する前、ジョルジュの体が唐突に消え去った。

ぐっ・・・?ここは・・・

ジョルジュが落下したのは基地の地面ではなかった。
埃をかぶった装置が並ぶ、薄暗い部屋。
見覚えのある部屋の床に、ジョルジュは落下していた。

研究所・・・?私は、無意識でテレポートを・・・?

そこはジョルジュやショボンにゆかりのある、ホルダー研究の舞台。
誰もいないはずの終わった研究所に、聞こえるはずのない足音が響く。
それは聞き覚えのある歩調で、ジョルジュの前に姿を現した。

・・・いつかここに帰ってくると思っていたよ。ジョルジュ・・・

穏やかな顔で、荒巻スカルチノフがそこにいた。

・・・!?・・・チーフ・・・父さん・・・?
ああ。今まで苦労したろう。お前はよく頑張ったよ・・・
・・・あ、あぁ・・・
お前は我々の研究成果の結晶だ。息子よ、お前は私の誇りだよ。よくがんばったな・・・

ジョルジュは涙を流し荒巻にすがりつく。
殺したと思っていた研究所のチーフ。自分の父親に。
荒巻はしっかりと息子を片手で抱きしめ、優しく呟いた。

だから・・・もうお休み

荒巻はジョルジュを抱きしめながら、残った片手に握った銃の引き金を引いた。
こめかみから血を流しながら、荒巻とジョルジュの視線が重なる。
ジョルジュは憑き物が落ちたような穏やかな顔をしていた。

・・・ホルダーなんていう能力があるからこんなことが起こるのかお?
そうかもしれんな。人の業というやつだ
・・・

内藤は屋上から落ちたジョルジュの姿を追わなかった。
地面に落ち死んだのだろうか。
因果応報だとは思うが、すべて終わった今となってはジョルジュに何か哀れみすら感じる。

その、内藤・・・あいがと、助けてくれて
当然だお。それが僕の望んだことだお・・・
あ、うん・・・そう・・・な、なによ!かっこつけちゃって!似合わないのよ!
ちょwwwそれはないおwwww
なぁ、みんな

リリィに乗ったドクオの声に、全員が振り返る。
リリィのレーダーに高速で飛来する影が映っていた。

やばいぜ、どうにも

携帯型のミサイルなど比較にならないサイズのミサイル。
大陸間弾道弾が2つ、内藤たちのいる基地にむけて飛んでいた。
どこからか発射されたミサイルは凄まじい速度で、もうすぐ基地に着弾する。

はやく逃げましょう
急ぐぞ、元気なやつはけが人を担いでいけ

全員が屋上のドアに急ぐ。
その時、基地内部で連続して爆発が起こった。
建物に大きなヒビがはいり、2つに割れる。

なんだお!?
誰かが自爆ボタンでも押しやがったか!

屋上がわれ、見る見るうちに建物が崩れていく。
屋上にはしった大きな亀裂が、内藤たちを2組にわけた。
ドアがあるほうにしぃ姉妹と双騎士、内藤。
その反対にドクオとショボン、ギコ。

ち・・・先生、ギコさん。リリィにつかまれ。飛び降りる
・・・静かに下りろよ
しゃあないか・・・怖そうだけど
内藤、全員をつれて早く逃げろ、ぐずぐずしていると崩れるぞ!
ラジャーだお!みんな急ぐお!

内藤に率いられ、全員が屋上から降りていく。
しぃ姉妹も走れるようだし、おそらくは間に合うだろう。

よっしゃ、いくぜ。しっかりつかまってろよ!

ショボンとギコはリリィの背に乗り、突起をしっかり握った。
加速のあとに浮遊感を感じる。
次に訪れるだろう落下感にそなえ、ギコは目をつぶり、ショボンは力を抜いた。

急ぐお、ツン!みんなも!
わかってるわよ!

瓦礫が落ちる廊下を走る。
内藤はツンを守るようによりそい走り、しぃ達は落ちてくる瓦礫を避け、時には打ち砕きながら階下へ急いだ。
1階にたどり着いたとき、前を走る流石ファミリーの姿が見えた。

おお、お前ら!こりゃなんの騒ぎだ?
兄者、そんなkとお言ってる暇はないぞ。さっさと逃げよう
お前たちも急げ、もうすぐ崩れるぞ!

流石ファミリーはそういうと、壁を吹き飛ばして出口をつくった。
その出口から、地面に着地するリリィが見える。
ショボンとギコも無事なようだ。

間に合ったお!もうすぐ・・・!?

屋上のほうで、すさまじい爆発音がした。
ミサイルの一発が着弾したのだ。今までとは比べ物にならない瓦礫が壁のように落ちてくる。
内藤は全員の状態を確認した。
その上で、走るのが遅いツンと、まだ走りにくそうなしぃを両脇に抱きかかえる。

ちょ・・・いきなりなにするのよ内藤!
内藤君!?
喋ってると舌噛むお!

両脇にツンとしぃを抱え、内藤は出口に向かった。
内藤の足なら間に合う。そのすぐ後につーがついてくる。
双騎士は先を走り瓦礫を砕きながら、出口までの道を確保していた。

はやくこい!
瓦礫はすべて砕いた!次が来る前に出るぞ!

外に駆け出した双騎士に続いて、内藤とつーが飛び出る。
そのはずだった。
内藤が飛び出したすぐ後に、外に出ようとしたつーの近くで最後の自爆装置が爆発する。
爆風で躓いたつーの足に、小さな瓦礫が落ちた。

つーさん!?
姉さん!
く・・足が・・・!

しぃとツンをおろし、内藤はつーを助けるために走り出す。
だがそれを、集まってきた生き残りの兵士の銃撃が妨害した。

な・・・邪魔をするなお!お前らも逃げないと危ないお!?

兵士は聞く耳をもたない。
内藤だけならどうとでもなっただろうが、ツンを守るために内藤はその場を動けずにいた。
内藤を抜き去り、リリィが走る。
つーの元で停止したリリィからドクオが飛び出したs。

つーさん、はやくこっちに!
ドクオ君、ごめん、肩かして・・・

ドクオが手を差し伸べようとしたとき、2発目のミサイルが着弾した。

基地施設は2発目のミサイルで完全に破壊され、瓦礫となった3階と2階がつーとドクオめがけて落ちてくる。
兵士を掃除していた双騎士は当然間に合わず、ツンを瓦礫から守っていた内藤も間に合わない。
ギコが助けに行くには遠すぎ、ショボンは走ることができない。
だが、人間など容易く押しつぶすような大質量の瓦礫は、ドクオ達にあたらなかった。
ドクオ達の頭上で破砕音が響き、ドクオ達は顔をあげる。
誰も乗っていないリリィが、二人に覆いかぶさるように移動していた。

な・・・!!リリィ!?

四肢を突っ張り、その下をくぐって行けといわんばかりに、青いカメラアイが点滅する。
瓦礫は絶え間なく落ち続け、リリィの背中が砕けていく。

ドクオ君・・・
リリィ・・・くっ・・・そったれが!

ドクオはつーを担いで走る。
リリィの下を潜り抜けると、リリィの足が跪く。カメラアイの光はもう消えていた。
ドクオが安全なところまで到達しふりむいたのと、大きな建物の破片がリリィを押しつぶすのは同時だった。
軋むフレームの音が、ドクオには最後のリリィの鳴き声のような気がした。

・・・助けてくれたね。ドクオ君のバイクが
ああ・・・ああ。リリィが、助けてくれた・・・

実際は、落ちてくる破片が当たったリリィのオートバランサーが四肢を開き、その結果偶然ドクオ達を覆うように移動しただけかもしれない。
だが、ドクオは確信していた。
リリィが自分の意思でドクオ達を助けるために、自分を犠牲にしたと。
ドクオとつーはみんなに合流し、その後からツンを抱えた内藤が歩いてくる。
基地から離れた雪原で、内藤たちは基地が崩れていくのを見ていた。

終わったお・・・
ああ、終わった。まったく・・・しんどい思いをしたなぁ
はーぁ。さっさと帰るべ

基地の崩壊を見届けた後、ここまで乗ってきた車に戻る。
当然のようについてきた双騎士のせいで帰りの車は窮屈だった。

いつの間にか、流石ファミリーの姿は消えていた。
だがまぁ、彼らのことだから、きっと飄々と生き延びているだろう。

・・・寒いな、弟者
ああ、あいつらの車に乗せてもらえばよかったんじゃないか?
乗るスペースあるか?ま、私達はロシアの民だ。こんな寒さ扇風機程度だろう

流石ファミリーは内藤たちの車が去った後の抜け道を、震えながら歩いていた。