後ろ?
後ろに何が・・・姉者!!

流石兄弟の背後、ジョルジュを倒したと気を抜き、ナイフの手入れを始めていた姉者に、巨大な腕が伸びていた。
開かれた手が、姉者の体を握りつぶそうと迫る。

馬鹿な!?

ジョルジュの手が握りこまれる。
5本の指はその鋭い爪を突き立てるように、姉者の体に突き刺さった。

ああっ!!
間に合わなかったか・・・!

だが、ジョルジュの凄まじい握力で捕らえられ、爪が突き刺さったはずの姉者の表情は変わらない。
それどころか、今にも体が引きちぎれるほどの圧力がかかっているはずの体はゆがみもせず、爪が刺さったにもかかわらず血の一滴も流れていなかった。
それを見て、流石兄弟は安堵のため息を漏らす。

ふぅ。さすがだな姉者
死んだかと思ったぞ。無事でなによりだ

姉者の能力、デコイビジョン。熱量も質量もある分身を作り出し、それが存在する間は本体は人の目に映らなくなる。
ジョルジュの手につかまる前に、かろうじて発動が間に合ったようだ。
捕らえられた分身が消え去り、流石兄弟の横に本物の姉者の姿が現れる。

なにが無事なものか、爪がかすったわ
かすった?
見たところ無事なようだが・・・
なにを言う。女の宝である胸を裂かれた。どこを見ているんだお前たちは
・・・姉者、俺たちが何も知らないと思っているのか?
まったくだ。それがパットだという事は百も承知。鍛えすぎて胸が発達しなかった売れ残りが笑わせる
・・・死にたいのか弟者

姉者にマウントをとられナイフを突きつけられている弟者と、それを止めている兄者を横目で見ながら、内藤とショボンはジョルジュの間合いに入らないように気をつけ、ジョルジュを観察するべく移動した。
胸の傷は急速にふさがり、意識を失ったはずのジョルジュの目に光が戻る。

再生か・・・
先生、あいつどんな能力を持ってるんだお?
それは知らんが・・・同時に使用できないはずだぞ
じゃあなんで・・・
私が完成体だからだよ・・・

膨れ上がっていたジョルジュの筋肉が縮んでいく。
それはただ縮むだけではなく、無駄な肉を削ぎ、必要な筋肉だけをのこして、炭素がダイヤモンドになるように収斂していた。
化け物じみた体躯を人間並みに引き絞り、その身体能力はさらに膨れ上がる。

学習進化・・・ミュウツー並みに珍しい能力を・・・
小さくなったのに・・・威圧感が・・・
貴様、その力のために何人のホルダーを犠牲にした!
君達は今まで食ったパンの数を覚えているのかね?
残念だが俺は和食派でね
胸糞の悪いやつだお・・・ツンもパンの1枚だったってことかお・・・!
彼女の能力は魅力的だったよ。まぁ・・・焼きそばパン程度かな
こいつ・・・!

内藤が駆け、ショボンがそれに続く。
もはや油断はなく、ジョルジュは二人を迎え撃つため本気で構えた。

そんなに怒らないでも良いだろう。能力を頂いただけだぞ?
なら能力を取り出されたホルダーはどこにいるお!
食い残しは処分するものじゃないかな?
やっぱり殺してるんじゃないかこの外道が!

内藤の拳とショボンの蹴りが迫る。
全力で放たれたはずの攻撃は、それぞれジョルジュの片手一本で容易く防がれた。

貴様らには散々な目にあわされたからな・・・どうなっても知らんぞ

内藤とショボンの攻撃を防いだ刹那、ジョルジュはドアを開け放つように両手を突き出す。
たったそれだけで、内藤とショボンの体は廊下の壁へむけて吹っ飛ばされた。
内藤は体を反転させ壁を殴り停止し、ショボンは壁に激突する寸前で踏みとどまる。

さぁ・・・どちらから死んでもらおうかな?

ジョルジュの目がショボンに止まり、ジョルジュの意識が一瞬ショボンに移る。
その隙を見逃さず、流石ファミリーが駆け出した。

目をつぶっていろ!

縦一列で走る三人の先頭、姉者が最後のフラッシュボムを投げる。
兄者と弟者が今度は左右に別れ、破裂したフラッシュボムから閃光が走った。
だが、一瞬の閃光の後、左右からの掌底はジョルジュの顔一歩手前で止まっていた。
爆弾を設置するはずだった姉者の首にジョルジュの手が食い込み、姉者の体が宙に浮いている。

そんな豆電球はもう効かんよ・・・そぅら!

首を掴んだまま、姉者の体を鈍器として兄者に振るう。
避ければ腕を振りぬいた反動で姉者の首が折れる。兄者は避けるに避けれず、姉者の体を受け止めた。
兄者が姉者を受け止めた瞬間ジョルジュは手を離し、姉者を抱きかかえたまま兄者は廊下の果てまで飛んでいく。

兄者!姉者!
自分の心配をするんだな、弟者。この距離ではリンクは使えんぞ?

ジョルジュの無造作に振るわれた腕が、だがしかし凄まじい速度で弟者に迫る。
リンクがきれ全能力が低下した弟者では、その速度に反応が間に合わなかった。
ラリアットの要領で胸に強烈な打撃を受け、弟者は壁にめり込む。

うぐ・・・ちくしょう、が・・・

気を失った弟者をつまらなさそうに一瞥し、ジョルジュは再びショボンに目を向けた。

まずは貴様を殺さんとな。人のことを5回も馬鹿呼ばわりしやがってからに・・・

ジョルジュは殺気を隠そうともせずに、ショボンにぶつける。
ショボンはそんなもの何でもないように煙草を取り出していた。
A-301でしたように、馬鹿にしたように煙を吐き出す。

6回だよ、馬鹿。足し算もできんのか?
・・・もういっそ気持ちが良いな・・・そこまで馬鹿にされると。癖になりそうだよ
そうだろう?ところで、裏当ては使えるか?
・・・?なにをいって・・・
ああ、お前には言ってないよ馬鹿。どうだ、内藤?
それには行動で答えるお!!

ジョルジュの背後で、内藤が間を詰めていた。
ホライゾンから受け継がれた知識から技を検索し、受け継がれた技術がそれに応える。
無防備なジョルジュの背中に、内藤の双掌が突き刺さる。
その動作に似合わない静かな音が響き、ジョルジュの体が傾いた。

どうだお!
ぐはっ・・・

だが、傾いた体は膝をつかない。
それどころか、わずかに肩が震えていた。
ジョルジュは、くぐもった笑い声を漏らす。

ククク。なんて・・・いうと思ったか?
な・・・!当たったはずだお!
それも学習済み、か・・・
ま、一応痛いんだがね。おかげで思い出したよ。私は屋上へ行く途中だったな、そういえば

ジョルジュは何事もなかったように歩き出した。
ゆっくり、敵などいないように。

・・・なめやがってだお・・・!
ぶち殺すぞ
ぶち殺すつもりなら追いかけてくるんだな。私は屋上に用がある

ジョルジュは勝ち誇った笑みを浮かべ、いきなり走り出した。
とんでもなくはやい。
内藤とショボンも走るが、とても追いつけたものではなかった。

・・・本当に逃げ足だけは速いな・・・
屋上になにがあるんだお・・・?
さぁな・・・クラスメイトでもいるんじゃないか

なんとか追いすがっていた二人だが、やがてジョルジュを見失う。
だが、行く先はわかっている。
二人は屋上へ急いだ。

屋上には、ヘリがあった。
ローターを回転させ、いつでも飛び立てる状態で待機している。

ご苦労。待たせたな

パイロットはジョルジュの異形に面食らったが、歴戦の兵士であるパイロットはすぐ気を取り直した。
ヘリの中にあった軍服を差し出し、ジョルジュがそれを着る。
着替え終わったとき、屋上のドアが開いた。

まさか逃げるつもりとはな・・・
情けないやつだお
なんとでもいえ。貴様らのおかげでこの基地はもう使いものにならん。そんなところで貴様らの相手をしている暇はないのさ

止めようと駆け出す内藤とショボンをあざ笑い、ジョルジュはヘリへ乗り込もうとする。
ヘリの昇降口に足をかけたとき、空を切る轟音が響いた。
広大な屋上の真ん中にあるヘリポートで、やりすぎ感のある爆発が起こる。

な、なんだ・・・!?

爆風で宙に舞ったジョルジュの視線の先に、巨大な白い狐がたたずんでいた。
青いカメラアイが静かにジョルジュを見据える。

男がケツまくって逃げてちゃダメだろー。なぁ?
貴様らが!何人集まろうが!相手になるかよ!!

ジョルジュは内藤の拳を避け、ショボンの蹴りを防ぎ、リリィの爪を受け止める。
単独の戦闘能力ではジョルジュに圧倒的に分があったが、手数が違いすぎた。
内藤たち3人は連携をとり、ジョルジュを追い詰める。

おりゃ!

内藤の拳をしゃがんで避ける。

シッ!

しゃがんだ体勢を狙った蹴りから、高く跳躍して逃げる。

もらった!空中じゃ避けられねぇぜ!

空中のジョルジュに、リリィの尻尾が迫る。
いくら鋼鉄の肉体を誇っていようが、鋼鉄を貫くパイルバンカーは防げない。
尻尾の先端がジョルジュの体に密着し、針を打ち出す弾薬に撃鉄が降りる。
だが、ジョルジュは貫かれようとするその局面で、笑った。

チカン・・・!
あ?痴漢?

ジョルジュの視線はリリィに向いていない。
その視線は内藤に向いていた。
ドクオはジョルジュの言葉など気にせず、パイルバンカーが発射される。
だが、ジョルジュのいったチカンとは、当然だが痴漢ではない。
それは痴漢ではなく、置換だった。

いかん!内藤!!

ジョルジュが奪った能力のうちの一つ、対象と自分の位置を置き換える能力。
視線の先の内藤とジョルジュの位置がいれかわる前に、ジョルジュの言葉の意味にただ一人気付いたショボンが内藤を突き飛ばす。
パイルバンカーの発射音が響いた。

ぶっ・・・ぐ・・・!
なにぃっ!?
先生っ!?

ジョルジュがいた空中で、必殺のパイルバンカーがショボンの体を貫いていた。
鮮血が空に舞う。

ふはははは!間抜けが!味方を減らしてどうする!
ぐっ・・・く・・・

ショボンの居た位置、内藤のすぐそばに出現したジョルジュは、突き飛ばされ倒れたままの内藤を踏みつけた。
胸を強く踏みつけられ、内藤は呻く。

せ、先生、嘘だろ!おい!
ぬぐぅ・・・すまん、大マジだ・・・今度ばかりは根性でどうにかなるもんじゃ・・・ない・・・
ばっか、喋るんじゃねえよ!なんで喋れるんだよ!待ってろ、安全なところまで運ぶから!

ドクオは地に落ちたショボンを抱え、屋上のドアへ急いだ。
それを追おうとジョルジュが足を動かそうとした。
その足を内藤がしっかりと掴んでいた。

い、いかせるかお・・・!ドクオ!こいつは僕に任せて先生を!
お、おうよ!死ぬなよ内藤!
もうちょっとだ、先生、がんばれ!
大口径の針じゃなくて良かったよ・・・けど、これはいかん、なぁ・・・

屋上のドアを開けようと手を伸ばす。
その手がノブにかかる前に、向こう側からドアが開いた。

なっ・・・先生!?
どうしたのよショボン!?
委員長につーさん!?な、なにか持ってないか!?医療具とか、なんでも良い!
ここに応急キットがある。その者は我々に任すが良い
急所は・・・はずしてあるな。間に合うか?
それだけありゃ十分だ・・・死なんですむようだな

駆けつけたしぃたちは、応急キットの残りを全て使い、安製剤などを打つ。
気合、だろうか。
ショボンの傷は筋肉の膨張により自ら止血を施し、全力で生存のため活動していた。

まさか、この俺がリタイアとは・・・やれやれだ
血が・・・へっ、やっぱあんた化け物だな、先生
ぶち殺すぞ?教師に向かって化け物とはなんだ。・・・おー痛い
そこでゆっくりしててくれ、先生。俺は内藤に加勢を・・・

振り向いたドクオが固まる。
屋上の真ん中、爆発跡のクレーターで、ボコボコにされた内藤が首を絞められていた。

内藤!
おっと。近づいたらこいつの首が折れるぞ?コキャッといくぞ?ん?
うぐ・・・ドクオ・・・
く・・・このダボが・・・
まずいな・・・

壁にもたれかかり腰を下ろしていたショボンは、内藤を助けに行こうかと体に力を込める。
だがダメージは大きく、体は動いてくれなかった。
その背後で、階段を上る音が聞こえる。

・・・内藤・・・!?
大ピンチの真っ最中かよ・・・

屋上に出てきたのはツンとギコだった。
爆発を聞いてここまで来たのだろう。
内藤を見たツンが泣きそうな顔をしている。
ギコは戦えないし、しぃ姉妹と双騎士は動けるようだが、今動いても内藤の首が折れるだけだ。
内藤を助ける術はない。内藤が自力で何とかする以外には。

ギコ・・・内藤のスキル、何か知ってるか?
ん?いや・・・身体強化の類じゃないのか?
俺も最初はそう思っていたが・・・もしかしたら・・・

だから、ショボンは一縷の望みを自分の考えに託した。

うぐぅ・・・

苦しい。ジョルジュの力が強くて、この拘束から逃げられない。
味方は動けない。
この状況は覆せない。
そう思ったとき、内藤の耳に強い言霊が届いた。

内藤ーっ!自覚して!気付いて、自分の能力に!
ツ・・・ン・・・?

なにを言っているのだろう。
自分のスキルなどとっくに・・・。
そういえば、内藤は自分の能力がなんなのか知らなかった。
あの日妄想の通りに強くなった体のことを思い出す。自分の能力は身体強化ではないのだろうか。
だが、なぜその能力が突然発現したのだろう。
それは、毎日思い描いた妄想のせいではないのか。
内藤の中で、受け継がれた豊富な知識がフル稼働する。
初めて芽生えた自分の能力に対する疑問に、1つだけ答えを示す能力があった。

やっと気付いたか・・・

久しぶりに、あの声が聞こえた。