内藤とギコが地下3階に近づき、しぃ兄弟と双騎士が休憩している頃。
ドクオは基地の敷地内で敵に囲まれていた。
ドクオはここにくるまでに、基地にあった戦車と戦闘ヘリの全て、基地の保有戦力の実に8割を撃破していた。
戦車とヘリの残骸の中を悠々と進み主要施設に突っ込もうとしたとき、ドクオを囲むように3つの兵器が出現する。
形状は戦車に似ていたが、戦車とは明らかに違っていた。
その戦車には手足がある。
バルカンファランクスはすでに弾切れ。
グレネードも数発しか残っていない。
どう出るか思案しているドクオに、人型戦車はいっせいに襲い掛かった。
ドクオは後部モニターを見ながら、リリィを急速に後退させた。
戦車とヘリの残骸を蹴散らし、敵の放つガトリングを跳ね返しながら敵の分析を始める。
リリィのモニターに敵のデータが表示されていく。
重量や推定装甲などをざっと読む。
兵装のところでドクオの目が止まった。
ドクオが目をひん剥いた瞬間、メインモニタに移った人型戦車は計16発のミサイルを発射した。
ドクオはコンソールを操作し、グレネード発射管から虎の子のチャフグレネードを発射した。
リリィの前方で弾けたチャフは金属片を撒き散らし、宙に漂う金属片がスティンガーミサイルの追跡機能を麻痺させる。
その隙にドクオは全速で横に逃げた。
まっすぐに飛んできたミサイルがさっきまでドクオがいた地点に着弾し、爆発が起きる。
ほっとしたのも束の間だった。
ミサイルの爆発が起こした黒煙を纏い突きぬけ、 高速で移動する人型戦車三台が現れる。
見ると、人型戦車の足にはローラーがついていた。
リリィにむけて鉄の塊が振るわれる。
人型戦車のパンチを避け、ドクオは三台の間を縫うように走り抜けた。
追ってくる人型戦車を後部モニタで見ながら、厄介な相手だと思う。
リリィの車輪が割れる。
割れた前輪と後輪はドクオ式フレームにより独自稼動が可能な状態に組み変わり、後部ユニットが蛇腹式に伸びる。
ドクオの座る運転席に余った装甲が集まり、前面ユニットが上部に上がる。
一部がせり出した前面ユニットに、二つの青いライトのようなカメラが出現した。
完全にドクオを包み込み、とがった頭部と尻尾。四肢をもつその姿は、まさに狐のようだった。
装甲に覆われた運転席で、ドクオはハンドルソケットに手を突っ込む。
アクセルを吹かし、人型戦車の1台に突進。
今までと違い可動式の4輪になったリリィは、さらなる高機動で人型戦車を翻弄した。
リリィの体当たりでよろめいた人型戦車に向けて、尻尾が迫る。
人型戦車の車体に突きつけられた尻尾の先端で、爆発音が響いた。
薬莢が飛び出し、尻尾が離れる。尻尾の先端には、鋭利な削岩機の針が見えた。
胴体部に穴のあいた人型戦車は、膝をおり活動を停止する。
内藤とギコは地下三階に到達していた。
どういうわけか、廊下にはボコボコにされた兵士たちが倒れている。
廊下にばら撒かれた空薬莢に転びそうになりながら、内藤とギコはA-301へと向かう。
A-301までの通路には、のされた兵士はいなかった。
空薬莢もない。おそらく、もともと兵が配置されていなかったのだろう。
ギコを部屋の外において、内藤はドアの窓にたった。
ノブを回す手に力をこめ、一気にドアを押し開けた。
ドアを開けた先には、広い部屋の中で囚われたツン。
内藤を見て驚いた顔をした後、来るのが遅い、と怒られる。
それで終わりだと思っていたのに。
実際には、そうはならなかった。
広い部屋に、壁を埋め尽くす機械類。
それから伸びたコードが、中央にある大きな椅子に繋がっている。
椅子に座っているのはツンだった。
そして、椅子に座るツンの髪を撫でている、ジョルジュ長岡の姿。
ジョルジュはツンを一瞥し、意識のないツンの頬をはたいた。
はたいただけとはいえ、ツンに手を出された内藤は激怒しジョルジュに向けて走り出した。
猛然と迫る内藤をニヤニヤと見つめながら、ジョルジュ長岡は腕を後ろに組む。
余裕たっぷりのジョルジュに内藤は警戒心を抱くべきだったが、頭に血が昇った内藤の頭の中はジョルジュを殴ることしか考えていなかった。
内藤は全力で拳を撃ち出した。
右手のホライゾンが空気を切り、小気味よい音が響く。
だがその一撃は空中で何かにあたり静止した。
ジョルジュまで後数cmという所で、何もない空間とホライゾンがせめぎ合い、帯電してように微細な稲光が光る。
どれだけ殴っても、どれだけ蹴っても、攻撃は届かない。
ならばと掴みかかれば、ジョルジュの体を覆う何かに手が阻まれる。
何も知らない人が見れば、よくできたパントマイムに見えたかもしれない。
両手を広げてジョルジュが挑発する。
内藤は無言で背を向け、出口に歩き出した。
ドアから一歩でる。
外で様子を探っていたギコが、何してるんだお前、とジェスチャーで言ってきた。
内藤はギコに答えず、足を踏ん張る。
一気に振り返り、ジョルジュに向かって思いっきり走り出した。
最初にジョルジュに殴りかかったときよりも長い助走から、今出来うる限りの速度で走る。
ジョルジュの間合いにはいるが、まだ殴らない。体全体でジョルジュに突っ込む。
内藤の体が、ジョルジュの周りの何かにぶつかった。
体は何かにぶつかり続け、紫電が走る。
そこにむけて、内藤は腕を突き出した。
拳は何かに阻まれるが、抵抗はそう強くない。
内藤の拳は何かを突き破り、ジョルジュの顔に迫る。
ジョルジュがとっさにガードを上げる。
だが両手を広げていたため、内藤の一撃に間に合わない。
余裕の表情から一変、驚愕したジョルジュの顔に、内藤の拳が突き刺さった。
ジョルジュは再び余裕の表情を浮かべた。
たしかに、ジョルジュの言うとおり、一撃ではあのバリアのようなものは敗れない。
だが、ジョルジュは内心で軽く混乱していた。
内藤の攻撃にミサイルを超える威力があったとは思えない。
理由があるとすれば・・・。
ショボンは、地下2階にあるコントロールセンターにいた。
敵の司令官らしき人物を筆頭に、半分は床に突き刺さり、もう半分は自分が向かっていたモニターに顔を突っ込んでいる。
一番大きな机にすわり、ショボンはパソコンからこの基地の詳細な地図を立ち上げていた。
パソコンのモニターには5つの部屋が映し出され、部屋のそれぞれには大きな装置が鎮座している。
そのうちの3つは破壊されていた。
ショボンは司令室を出ると、司令室の前で突入の機会を探っていた敵兵士を軽くひねり、最後のバリア発生装置へと向かった。
ジョルジュは再び余裕を取り戻していた。
自分が止まってさえいなければ、目の前の内藤になす術はない。
いくら殴られようがこのバリアが止めてくれる。
2階の発生装置を壊されでもしたら状況が変わってくるが、内藤は発生装置の存在を知らないようだ。
ジョルジュが攻めに転じた。
届かない攻撃を続け疲労していた内藤は避けることができなかった。
内藤の腹にジョルジュの蹴りがめり込む。
疲労に加えて、強烈な蹴り。
内藤は膝を地面に膝をついた。いやらしい笑みを浮かべてジョルジュが近づいてくる。
膝をついたまま顔を上げた内藤は、ジョルジュの顔に向けて勢いよく唾をはいた。
ジョルジュは内藤をバカにした目で見ていた。
唾をよけようともしない。
笑い出そうとしたジョルジュの頬に唾があたり、派手に広がった。
ジョルジュは呆然として頬を触った。
ジョルジュの手に内藤の唾がべったりと付着する。
ジョルジュが呆然としている間に回復した内藤はすぐに立ち上がり、ジョルジュに向かって蹴りを放った。
ジョルジュはまだ小声でブツブツ言っている。
防ぐ意思もないまま、ジョルジュは内藤の蹴りで無様に転がった。
ゆっくりと立ち上がるジョルジュに向かって、大きく振りかぶる。
避けようともしないジョルジュに拳が迫る。
ジョルジュは自分に迫る拳ではなく、内藤の顔を見ていた。
猫の目ような、不気味な目で。
ジュルジュまであと少しのところで、ジョルジュは何か口走った。
動くな。ジョルジュのたった一言、そういった。。
だが、そんな言葉でこの拳が止まるはずがない。
内藤は何を言っているんだと一瞬戸惑ったが、気を取り直して目の前でハンカチを取り出そうとしているジュルジュの顔を殴りつけた。
もんどりうって再び倒れたジョルジュは、今度はすぐに起き上がり内藤を信じられないとような目で見つめた。
対して内藤は、理解しがたいというような目をしている。
間の抜けた声で返されたジョルジュは、絶句し固まる。
内藤も訳のわからない展開に困り、どうすべきか悩んでいた。
奇妙な静寂が支配したその部屋に、靴の音が響く。
地下3階と2階を吹き抜け上に使用した部屋、A-301.
地下2階側、つまり内藤たちの頭上のベランダ状になったところに、ショボンが現れる。
ショボンは普段学校でする挨拶のように自然に、ショボンは眼下のジョルジュへ向けて片手をあげた。
ショボンは加えていた煙草を一吸いし、慣れた手つきでポイ捨てた。
ベランダの手すりに体重をかける。
ショボンの捨てた煙草が、唖然としているジョルジュの額にあたった。
ショボンは新しい煙草を取り出し、火をつけた。
最後の一本だったようで、空になった煙草の箱をジョルジュに投げた。
こめかみに青筋を立てながら、ジョルジュが避ける。
床に転がった煙草の箱には、VIPスターと描いてあった。