ラウンジ山は荒巻の家から2時間ほどのところにある。
ショボンの運転するワゴンの窓から、ドクオ以外のメンバーは景色を眺めていた。
一面の雪景色と、針葉樹の森。その景色は日本とはまた違う趣があり、神秘的ですらあった。

綺麗ね・・・
あぁ、真っ白で・・・なんかこう、いいな
綺麗だけど寒そうだお。ドクオはバイクで平気なのかお?
・・・全然平気そうだねー

ドクオの乗るバイクでは、ドクオが平然とした顔で景色を眺めている。
華氏1000℃を超える排気熱を利用したヒーターのおかげで、むしろドクオはワゴン車内よりも快適に運転していた。

シベリア~超特急~

ラウンジ山に到着し、内藤、ショボン、ドクオはビデオの内容を思い出す。
ロシア、ラウンジ山の麓。赤十字の岩から東に200メートル。
ラウンジ山についた一行は、赤十字の岩を探した。

しかし、麓といっても・・・
こうも広いとなぁ
見つかるかっつーの!

探し回っても岩は見つからず、ドクオが足元の石を蹴る。
遠く転がっていった石は、こぶし大の石にぶつかり止った。

・・・あれ?もしかして・・・

内藤がその石に近づいていく。
小さく書かれた、赤い十字の模様。
赤十字だった。

岩じゃなくて石じゃないか・・・
これじゃわかんねぇよなぁ・・・
あれ、見つかったの?ドクオ偉いぞっ
あ、いや・・・ただ石蹴っただけだから・・・まいったな・・・

頭を撫でられ赤面するドクオをよそに、ショボンは方位磁石を取り出した。

東は・・・こっちか

赤十字の岩から東。
その方向には岩肌しかない・・・と見えるように、巧妙に偽装されたトンネルがあった。
茂みと木をうまく利用している。これでは何も知らない人間は気にも留めないだろう。

結構広いトンネルだお
バイクも持っていけるな。おいてくことになったら泣いちまうとこだったぜ
車もいけそうだな。みんな、車に戻れ、いくぞ

ショボンの運転するワゴン車を先頭に、明かりのないトンネルを行く。
車のライトに照らされたトンネル内の骨組みは古く、どうやら使われていない抜け道のようだ。
この先に、ツンが捕らえられている。
内藤の手に力が篭った。

20分も進むと、行く手に光が見えてくる。

トンネルを抜けた先、そこ―――
そこは不思議の国でした、なんて言ったらぶつからね
―――に何が待ち受けているのだろう。俺たちの胸は鳴り響くばかりだ

光に近づく。
出口を抜けた先に広がる光景は、今までの白い野原ではなかった。
まさに自然の要塞というに相応しい、切り立った山肌に囲まれた空間。
その中心に、フェンスに囲まれた施設があった。
いかにも基地という言葉がぴったりくる。
4つの見張り塔に、大きな倉庫が2つ見える。
真ん中にある一番大きな建物が主要施設だろう。
おそらくあの建物にツンが捕らえられている。

まだ気付かれてないだろうな
ちょうど木で死角になってるな
どうするお?突っ込むのかお?
いや、何とかして気付かれずに潜入したいところだが・・・
身を隠すようなところはないぞ
あの見張り塔、飾りって訳はないわよね・・・

車から降りて岩陰に隠れ、基地を観察し相談する一行の中で、ひとりだけ話しに参加していない者がいる。
つーは、両耳に手をあて目を瞑っていた。
基地までの距離はおよそ100メートル。風切り音が少々邪魔だが、基地内の様子は把握できる。

穏便にはすまないみたいねー・・・
なんか覚えのある展開だお・・・
すーっごい物騒なこと言ってるわよー。戦車やら何やら
・・・ほかに何かわかるか?
えーと・・・射角あげ!一時の方向、一斉射撃用意!って言ってる
ちょwwwそれはwwwwww
バレバレじゃねぇの!誰だ死角だから見つからないなんつったのは!
あんたでしょバカ!
どうする先生!やつらばっちりこっち狙ってるぜ!

リリィの望遠モニターでこちらを狙う戦車数台を確認したドクオが叫ぶ。
リリィのモニターには、推定射撃開始時間が表示されている。
残り8秒。

やれやれ・・・全員、固まって動くな。狙い撃ちにされるぞ、散開しろ。これ以降は各自の判断で行動するんだ、急げ!

ショボンはすぐに駆け出す。
全員がそれに倣って走り出すと、今まで隠れていた岩に砲火が注がれた。
削り取られる地面と、白い雪煙。

砲火が止まり、砕け散った岩の破片がパラパラと地に落ちる。
晴れていく雪煙の中に、それよりも白い影があった。

各自の判断・・・って言ったよな、先生

完全に雪煙がはれる。
白い影は傷一つない姿で、1ミリたりとも動いていなかった。
ドクオは、リリィのシートで腕をくみ、眼前の敵を睨み付けている。

俺がここで戦えば、みんなが安全に潜入できる確立が上がる・・・と判断するぜ・・・

リリィのエンジン音がそれに応える。
華氏1000℃の排気ガスが雪を溶かし、地面を溶かす。
ハンドルソケットに手を入れると、ドクオの体にシートベルトが巻き付いた。

初陣だぜ。ずっと眠っていた、ドクオスペシャルを超えた無敵の白狐のな!

白狐リリィは、雄叫び代わりのけたたましいエンジン音をかき鳴らす。
装甲が展開し、前面にある攻撃ユニットが現れた。
後部のグレネード発射管がせり出し、側面から現れた左右2対のバルカン砲が黒光る。
その様は古代のファランクス。
たった一機で、それは最強の槍兵戦術を再現する。

疾走るぞリリィ!お前の力を見せてやれ!

純白の雪が舞うロシアの地に、白い狐が走り出す。

戦車隊の隊長は、目の前の光景を信じられない思いで見ていた。
雪の上だというのに舗装された道路を走るように、白いバイクが迫ってくる。
主砲を撃とうが、対歩兵機銃を撃とうがかすりもしない。
戦車のシステムであれを捕捉するには、あの白い狐は速すぎた。

戦車数台の攻撃をあざ笑うように避けながら、白い狐は銃弾を撒き散らす。
イージス艦に装備されている対空機関砲を改造流用した4対のガトリングは、戦車の斜角装甲を容易く削り取っていく。
なす術はなかった。
次々と部下の戦車が火を噴く状況で、戦車隊長が出来ることといえば通信機にむかって叫ぶことくらいだ。

戦車隊長「本部、本部!無理だ、助けてくれ!敵は化け物だ!戦車では歯が立たん![/serif]

連絡を受けた管制本部では、モニターに移る戦車を示す光点が1つ、また1つと消えていく。
やがて最後の一つの光点は、一言を残して消失した。

狐が笑っている、と残して。

雪を蹴り上げ、二つの影が併走している。
敵の戦車は追ってはこない。
背後で響く轟音は、遅延戦闘の証だろう。
戦車数台を相手にこれほど派手に戦えるのなら、音の主はドクオか。
一足でフェンスを飛び越え、なお走る。

・・・かっこつけちゃってさ・・・
?姉さん何か言った?
なんにもー。それより、入れそう?
ええ。あそこに見えるの、入り口じゃない?

一番大きな、主要施設と思われる建物にドアが見える。
サイズからして非常路とか裏口とかだろう。
ドア近くまでに敵との遭遇はない。
つーの強化された感覚はさながらレーダーの如く敵兵士の動きを察知し、安全なルートを示していた。
周囲を警戒しながらしぃがドアを開け、中にはいる。
つーは中にはいる前に少しだけ振り返った。
雪原のなかに、火を噴く戦車が見える。そして、その中を駆ける白いバイク。

無理しちゃダメだよ、ドクオ君・・・