-ニュー速市-

ギコは、真剣なまなざしでパソコンを眺めていた。
傍らには回復したしぃが、同じようにパソコンの画面を見ていた。

画面には、北海道の衛星写真が写し出されている。
その衛星写真の上を、青く点滅するマーカーが凄まじい速度で移動していた。
ロシアへ向かって。

むっ・・・・ぬぅぅ・・・
くっ・・・・
ぐえぇぇぇ・・・・

内藤たち三人は、椅子に座ったヒキガエルのようになっていた。
初めて体験する時速1000キロを超える加速に、会話する余裕すらない。
三人はただ早くこのロケットが止まってくれることを願って、次にどうやって止まるのか考えた。

ロシア某所で、轟音が鳴り響いた。
半径50キロに民家がないような僻地で、音に驚かされ一斉に野鳥が飛び立つ。
しばらくして、音の発生源近くの小屋から、3人組がでてきた。

・・・中々楽しかったな。ジェットコースターのようだ・・・
・・・死ぬかと・・・思った
先生・・・たまには弱音はいてほしいお・・・
うわぁぁん!怖かったよぉ!僕おうち帰るー!!・・・こうか?
・・・いや、やっぱり気にしないでほしいお
寒い・・・
まずはこの寒さを何とかせんといかんな・・・

あたりを見回す。
厳しい気温に、一面に広がる白い荒野。
小屋の近くに、車が止めてあった。
車の中にあった防寒着を身につける。
これでひとまず凍死は免れるだろう。ロシアの防寒着はとても暖かかった。
車は鍵がささったままだった。
話し合いの末その鍵を回すと、何事もなくエンジンがかかる。
助手席にのった内藤がダッシュボードをあけると、中から紙がでてきた。

これ、地図だお。しかも、日本語の・・・
ふむ。行ってみるか、アスキーアートとかいう街に

その男は、自宅の2階から外を眺めていた。
そろそろ来るであろう来訪者を待ちながら。
葉巻をくわえ、ウォッカを片手に窓からこの街を見ていると、落ち着く。
男は紫煙をはきだし、一気にウォッカを飲み干した。

おーい娘さん、すまんが新しいウォッカをもってきてくれんか?

少ししてから、1階からウォッカをもった女が現れる。
つーだった。

もう・・・荒巻さん、あんまり昼間っからお酒飲んじゃダメって教わらなかったの?
ロシアの人にとってはウォッカは水みたいな物なんだよ

荒巻と呼ばれた初老の男は、渡されたウォッカの瓶をあけると盛大に煽った。

アスキーアートの外れにある家の前に、一台の車が止まる。

ここが荒巻って人の家かお
ああ・・・地図が間違ってなければな
けどよ、相手はロシア人なんだろ?先生ロシア語喋れんの?
ドーブラエ ウートラ、ドーブルゥィ ヂェーニ
おお、すげぇ!
意味は知らん

車の前でそんなことを話していると、家の玄関が開いた。
ゆっくりとした足取りで初老の男が出てくる。
三人を見て、穏やかに片手を挙げ挨拶してきた。

プリヴィェート
・・・何ていってるんだお???
ズドラーストヴィチェ カーク ヴァス ザヴート?
日本語でおk
ちょwwwww
ちょwwwww
ぶち殺すぞ
はっは、すまんね、からかって。どれ、日本から来たならロシアの寒さは堪えるだろう。暖かいスープを用意してあるから中にはいりなさい

荒巻はそれだけ言うとさっさと家の中にはいっていった。
どうしたものか少し迷ったが、とりあえずついていくことにする。
家の中は暖房が効いていて、冷え切った体が休まった。

おーい娘さん、スープを持ってきておくれ。お客人だよ
はいはい、ただいま。今の私メイドみたいねぇ・・・

家の置くから返事が返ってくる。
いい匂いが漂ってくる。台所なのだろう。
それにしても聞き覚えのある声だ。

おまたせー・・・って・・・
つーさん!?
な、なんでここに!?
おぉ、つー。・・・はやくスープ
あんたたち・・・ほんとに、きたんだ・・・
つーさん、無事でよかったお。なんともないお?
あの三文芝居は中々おもしろかったぞ
・・・つーさん!
うん?
すまねぇ、俺が囮にさせたせいで・・・俺、俺は・・・っ?

つーの前に飛び出したドクオが固まる。
ドクオが喋りきる前につーはドクオを抱きしめていた。
つーは、自分の胸に顔を埋めて固まっているドクオの頭を優しく撫でる。

んー、別に良いよー。しぃのために頑張ってくれたんだし、こんな所まで来てくれたしね。お姉さんは嬉しいよぉ?
~~~~~っ!!!!

ドクオは凄まじい勢いでつーから離れると、防寒着も持たずに家の外に走っていく。
凍死寸前のドクオが戻ってきたのはそれから30分後だった。

さぁて・・・何から話そうか・・・

ドクオを暖炉の前に座らせ、つーが毛布をかけてやる。
キョドるドクオを横目で見た荒巻はスープを啜りながら、静かに話し出した。

まず自己紹介しようか。私は荒巻スカルチノフ。ロシアの退役軍人だ
我々は・・・
ああ、君達のことはあの兄弟から聞いているよ。日本から少女を助けるために来たんだろう?
あいつらを知ってるってことは・・・おじさんも敵かお?
敵ではないよ。そうだな、まずはあの兄弟のことを話そうか

荒巻は懐から一枚の写真を取り出した。
10年ほど前のものだろうか。
腕を組んでたっている女性を真ん中に、まだ十代半ばほどであろうあの兄弟。
体育館で襲ってきた姉物。父親らしい男性は幼子を抱えていた。

真ん中が母親だ。母者という。私とその母者は同じ空挺部隊に所属していてね
8年ほど前か・・・突然その一家が謎の武装集団に襲われたんだ
・・・
母者は強かった。たとえ1個中隊が攻めてきても撃退できただろうな
けど、できなかった・・・?
ああ・・・。皆殺しにされかけた敵はまだ幼い妹者を人質にとった。父者は殺され、残った兄弟を逃がした母者は敵に捕まったよ
・・・なんで襲われたんだお?
母者とその一家は強力なホルダーだった。その集団はホルダーを集めて何か企んでるらしい
その集団を取り仕切っていた男の名は、ジョルジュ長岡という
ジョルジュ・・・長岡・・・!!
ホルダーを集める、か。ふむ・・・
で?その逃げることができた奴らがなんでそのジョルジュ長岡って奴に協力してるんだ?
彼らはすぐにジョルジュに見つかった。殺されると思ったが・・・そうはならなかった。彼らを捕まえにきた部隊は彼らによって返り討ちにあったからだ
ほう・・・
ジョルジュはそれを見て喜びこう言った。協力すれば母と妹は無傷で返してやる。だが逆に歯向かえば
歯向かえば・・・手足をそぎ落として君の元に届けよう。腹に仕込んだ爆弾が爆発する様は実に笑えるぞ・・・
・・・!なぜその台詞を知っている!?

なぜだろう。内藤はそんな台詞を聞いたことはない。
だが、何故か頭の中にイメージが浮かぶ。
手足をそぎ落とされ、逃げろと泣き叫ぶ誰かの姿。
それでも抱きしめようとして、爆炎に焼かれる自分によく似た姿が。

・・・ホライ、ゾン・・・?
ホライゾン・・・?まさか、紅夜叉ホライゾンか?
なんだそりゃ?
・・・かつて日本に高名な武術家がいた。表舞台の話ではないがな。その男は恋人をさらわれたった一人でジョルジュ長岡と戦ったそうだ
それが紅夜叉とやらか?
そうだ。風の噂では爆発に巻き込まれ死んだらしいが・・・君は彼にゆかりある者なのか?
・・・そんな話は・・・知らないお・・・
ふむ・・・まぁいい、話を戻そう。要するに彼ら兄弟は捕まっている母と妹のためにジョルジュに従っているのだよ

どこかで歯車が狂っていた。
自分の右手にあるホライゾンの設定は知っている。
内藤ホライゾンという理想の自分は毎日のように妄想の中で見てきた。
ジュルジュ長岡も名前だけは知っている。
ホルダーという存在も、ツンが狙われた理由も設定のうちだ。

だが、紅夜叉という通り名は知らない。
そもそも、ツンがさらわれた時から何かが違っていたのだ。
教室に兄者と弟者が入ってきたとき、自分があっさり撃退するはずだったのに、ツンはさらわれた。
そもそも、設定の中に名前すら出てこないギコやつーの存在はなんなのか。

僕の妄想が僕を変えたのは確かだお・・・けど、この世界は本当に僕の妄想で変わったのかお?僕の妄想にそれほどの力があるのかお?
ま、ともかくだ。君らは捕まっている少女を助けるためにジョルジュのいる本拠地に乗り込まなければならない。そうだな?
まさしく。大まかな場所も例の兄弟から知らされている。今の話からすると嘘ではないだろう
うむ。ならここで休んでいくといい。奴らは私の存在を知らんはずだからな。ここは安全だ
助かる。ご好意に甘えさせてもらおう

つーを加えた一行は荒巻の家の家で一泊することになった。
荒巻の家は一人で住むには広く、4人それぞれに部屋があてがわれた。
その夜、4人はそれぞれの部屋で思い思いに過ごす。

明日出発か・・・バイクを置いてきた俺が役に立てるのか・・・?

不安に駆られる者。

しぃは大丈夫かなー・・・帰ったら何て言おっかなぁ

帰ってからのことを思う者。

ジョルジュ長岡・・・か・・・

自己の思考に埋没するもの。

・・・からくりが分からなくっても、僕に出来ることは1つだお。ツンを・・・助けるお

決意を新たにする者。

それぞれの思惑を包み、ロシアの夜は更けていく。

-ロシア上空-

極寒の空を、空自の開発中輸送機、試作型C-Xが飛んでいた。

さぁて・・・間に合うかね
間に合わないと困るわ。せっかく色々もってきたのに

しぃの視線の先には、大きなコンテナがあった。
中にあるのは、ありえないサイズのバイク。
しぃとギコが見たことのあるドクオスペシャルよりさらに2回りは大きい。
純白の車体に、側面部にとりつけられた大きな装備。
車のようなタイヤと超肉厚の前面装甲。
それはもはやバイクの範疇を越えていた。

さらに、もう一つ小さなコンテナがある。

で、あっちには何がはいってるんだ?
それはまだ秘密

ギコが教えろと駄々をこね始めた頃。
高亜音速で飛行する試作型C-Xは、ロシアの田舎町、アスキーアートの上空へと到達した。

忘れ物はないか?使えるものは全て持っていってかまわんからな

内藤たちは、荒巻に借りた大型ワゴン車に荷物の積み込みを行っていた。
防寒具に非常食、はては歯ブラシやら耳掻きまで、荒巻の家にあるものを詰め込めるだけ詰め込む。

お世話になりましたお
ほんと。荒巻さんは私のロシアのおじいちゃん認定しちゃいます
はっはっは。それは嬉しいな
さて、そろそろ行くぞ。世話になったな、荒巻さん

ショボンが運転席に座り、内藤が助手席に座る。
つーが後部座席に乗り込み振り返ると、ドクオは車に乗ろうとせずに突っ立っていた。

どしたのドクオ君?トイレ?
いや、その・・・バイクがない俺がいっても邪魔になるだけじゃないかと思ってよ・・・

つーが口を開く。
だがその口から言葉が発せられる前に、クラクションが鳴り響いた。

だったらバイクがあれば良いんじゃね?

クラクションの主である大型トラックから、ギコが降りてくる。
煙草をくわえたギコは、トラックの荷台にあるコンテナを指差した。

もってきたぜ、お前さんのバイク
ギコさん!?なんでここに・・・いや、それよりバイク持ってきたって、北海道までとりに行ってくれたのか?
北海道まで行くのが面倒だったんでな。お前さんの家にあったバイクをもってきた
俺の家にあったバイクって・・・まさか白いやつか?
ああ、白くてどでかいヤツだ。ありゃもうバイクじゃねぇな
・・・やった・・・!助かるぜギコさん、あれさえありゃ怖いものはねぇ!
で・・・どうやってきたのか知らんが、お前何しに来たんだ

ギコは無言でショボンの襟元をさした。
ショボンが防寒着の中に手を入れスーツの襟元をめくると、小型の発信機がついている。

それの信号辿って輸送機でひとっ飛びよ
俺たちが地下行ったりロケット乗ったりしてるときに家でモニターに向かってたと
まぁな。にしてもあの速度でよく・・・
ぶち殺すぞ

大型トラックの荷台から下ろされたコンテナが開き、白いバイクの姿が現れる。
ドクオは嬉しそうにそれにまたがり、勢い良くエンジンをかける。

へへ、さすがリリィだ、この程度の寒さじゃ何ともないぜ

ドクオスペシャル発展改良型ド級バイク。
Y2Kとゴールドウィングをベースに、ジェットへリ用ガスタービンエンジン2基搭載。
ダマスカス重複合合金、8mmバルカンファランクスCIWS、後部グレネード発射装置が取り付けられ、ドクオ式可変フレームを持つ走る怪物。
その純白の装甲から、ドクオはこのバイクをリリィと呼ぶ。

おい、誰もそんなことは聞いていないぞドクオ
・・・まぁ、うん。そうだろうと思ったよ

トラックのそばでは、つーとしぃが感動の再会真っ最中だった。
ドクオの説明など誰も聞かず、全員が抱き合う姉妹を眺めている。

姉さん・・・心配したんだから・・・
よしよし、妹よ。愛い奴め、このこのw
うーん、良かった良かった、だお
それでね、姉さん。いい物もってきたの
ん?いいものて?ダッツのアイス?
ほら、あれ

しぃの視線の先で、大きなコンテナの中にあった小さなコンテナが下ろされていく。
開いていくコンテナの扉から、目も覚めるような青色が垣間見えた。

・・・シエルザイン

それは剣だった。
柄と刀身が一体化したタイプの、細身の騎士剣。
青い刀身に描かれた白い山百合の紋章がまるで青空に浮かぶ雲のよう。

そう、姉さんの剣。ないと困るかと思ってね
ふふ。ありがと、しぃ

装備の補充もすみ、今度こそ一行は出発する。
目指すはラウンジ山。
そこが、最終決戦の舞台だ。