階段をのぼった物陰で、しぃ姉妹とドクオが敵がいるか探っている。

どう、姉さん?敵いる?
んーと、鉄の匂いとおっさんの匂いが二つ、それ以外はないねぇ
う・・・おっさんの匂い・・・想像しちまった・・・
あ、ゴメンゴメン。お詫びにあたしの匂い嗅ぐ?
・・・へぁ?い、いいいや、良いよ!遠慮する!
あらぁ・・・お姉さんショックー
・・・姉さん遊んでないでいきますよ
ん、ラジャー

二人は剣袋から獲物をとりだす。
しぃは竹刀ではなく、日本刀を。
つーは西洋の豪奢なサーベルを。

じゃあ、いきましょう姉さん
ええ、よくってよ?
・・・まぁ、いきましょう

二人は物陰から一足で飛び出し、互いに鞘から抜かず一撃で見張り二人を昏倒させる。
見張り二人が倒れる小さな音を最後に静寂が訪れた。

おぉ。お見事
いいえ、お粗末でした
ねぇ倉庫ってこっち?
ん、そうそう。そのドアあければ倉庫
ふーん・・・

西側の小ホールは、そのままステージ裏に繋がっている。
見張りが守っていたドアが倉庫のドアのようだ。
まだ見張りがいたという事は、すくなくともまだ誘拐犯は倉庫から出てはいないだろう。
しぃとドクオはほかに敵がいないか警戒していたが、ステージのカーテンの向こうで銃声が響いているあたり、敵の陽動をしてくれているようだ。

ここが倉庫ってのはわかったんだけどさ・・・ちょーっち遅かったかなぁ?
え?
だって、声がするもん。兄者、弟者、って

体育倉庫のドアが開いていく。

・・・トドクオ君、ちょっと隠れてて

ドアが開ききり、真っ暗い体育倉庫から二人組みがでてくる。
しぃとつーは抜刀し構える。しぃは正眼に日本刀を構え、つーは力を抜いた無行の位。
ステージのカーテンにくるまって隠れたドクオは、その様子を眺めていた。

あれは・・・教室に乱入してきた二人組みの片割れ・・・
廃工場にいた男・・・
まったく・・・ボコボコにされて捕まったと思ったらもう敵か
敵にばっかり出会うとはさすがだな、兄者
・・・まぁ、むさい男じゃなくてかわいいオニャノコが敵なんだから良いだろう。堂々とボディタッチできるぞ
こんなときもスケベ心を絶やさないとは、さすがだな兄者。そんなだから捕まるんだ

軽口を叩きながら、誘拐犯、弟者と兄者は構える。
教室でショボンと戦ったときとは違い、拳は握らず掌を突き出す構え。
それが左右対称。

中国拳法が北派、円華拳、兄者
同じく弟者
んー・・・和洋折衷、流派ノルド、つー
小野派一刀流、しぃ。銃弾の借り、お返しします

観客のいないステージで、兄弟と姉妹の舞踏がはじまる。

円を描き迫る兄弟を、姉妹が迎え撃つ。
兄は姉を、弟は妹を相手に選んだ。
しなるように放たれるサーベルの連撃を、兄者は掌で軽く打ち軌道をそらす。
だが兄者も手数の多さになかなか懐まで入れず、つーの攻撃を捌き続ける。

お、やるな、姉ちゃん
んふふ、それほどでもあるかなぁ。ていうかあんたそれ、手切れたりしないの?
この程度なら問題はないよ
む。この程度ってのはお姉さん聞き捨てならないなー

剣速があがった。
一呼吸の間に3回は飛んでくる斬撃が5回に増え、鋭さのました刀身が月明かりを反射し光条を描く。
捌ききれない一閃が兄者の体を浅く裂いた。

むぅ・・・捌ききれんか・・・!
降参すれば許したげるよ!・・・そこっ!

強化された感覚が、兄者の動きを視覚以外からも捕捉する。
その感覚が僅かな隙を見つけた。
つーはその隙を見逃さず、突きを繰り出す。
だが、兄者の肩を貫くはずだった高速の突きは、風切り音をたてて空を切った。

まぁ、捌けなければ避ければ良い話な訳で

驚愕するつーの目に、ほんの刹那に懐まで踏み入り心臓を狙う、兄者の掌底が映っていた。

縦横無尽に剣閃が奔る。
前へ前へと猛攻をしかけるしぃの攻撃を捌きながら、弟者はうまく後退し続ける。

はっ!
うぉっと!おいおい、器物破損だぞ、それ

袈裟懸けの一撃をサイドステップでかわした弟者の後ろで、飾ってあった壷が真っ二つにスライドする。
弟者はまだ軽口を叩く余裕があるようだ。

くっ・・・工場では内藤君に一撃でのされていたわりには・・・!
なんだ、見てたのかよ恥ずかしいな。あれには理由があるんだよ、理由が
理由・・・?
おうよ。俺たち兄弟のホルダースキルはリンク。血を分けた兄弟同士が一定距離以内にいれば様々な能力が上昇する。ま、二人で一つってヤツよ。

そこまで言うと、後退し続けていた弟者の動きが変わる。
足運びが半円を描き、蛇のようにしなやかな軌道でしぃに迫ってきた。
しぃは袈裟、逆袈裟の2連撃で迎撃する。

つまり、今みたいな状況だと俺たち兄弟に敵はいねぇ

当然のようにしぃの斬撃をすり抜けた弟者は、しぃの腹部を思いっきり蹴りぬいた。

うぁっ!・・・っく、痛ぅ・・・

左胸にえぐられたよう。
たった一撃だが、ダメージは小さくない。
とっさに打点は外したが、兄者のはなった螺旋の掌底はつーの胸に食い込み、その衝撃は背中までを貫いた。
全身の血液が逆流するような感覚に一瞬呼吸が止まり、つーはたたらを踏んで後退する。
横に、しぃが転がってきた。

うっ・・・ぇ・・・かはっ・・・

しぃは弟者の蹴りで吹っ飛び、つーの近くに転がった。
意識が朦朧とする。
息を吸うと胸が痛い。息を吐くと吐きそうになる。
肋骨が折れたようだ。呼吸に血の匂いが混じっている。
折れた肋骨が肺に刺さっているかもしれない。
苦痛に顔を歪めながら起き上がろうとするが、腕に力がはいらない。

兄者と弟者が歩いてくる。
つーではなく、ダメージが大きいしぃを狙っているようだ。

しぃ・・・!

つーは震える足を叱咤し、まだ起き上がれないしぃの前に立ちふさがった。
兄者と弟者の歩みは止まらない。

・・・だめ・・・ね、さん・・・逃、げて・・・
姉が妹を見捨てるわけにはいかないでしょー・・・ちょっとだけ逃げたいけど
弟者、実はさっき胸を触ってしまったんだが
ほう。どうだった兄者
あぁ・・・聖母マリアの如き溢れ出る愛を感じたよ
軽くキモイぞ、兄者

兄者と弟者が歩く。 しぃのほうへ向かう兄弟に、ダメージの残るつーが立ちふさがった。

この状況はやばいな・・・

ドクオは息を殺してしぃとつーのピンチを見ていた。
せめて自分が動けないしぃを連れて移動できれば良いのだが、そうするには今隠れているカーテンから飛び出し、しぃの所まで近寄らなければならない。 だが、ただ飛び出しても邪魔になるだけだろう。
せめて伝えることが出来れば・・・。

何かないか・・・

ドクオの脳裏に、喫茶店バーボンハウスでの会話が思い浮かぶ。

”耳も目もよくなるよー。たとえば今シャキンの奴ぶち殺すぶち殺すって呟いてるねぇ”

耳がよくなる・・・?もしかしたら・・・
・・・つーさん、つーさん。聞こえるか?聞こえたら何か合図してくれ

小声で囁いたドクオの声に、数瞬遅れてつーがうなづいた。

・・・つーさん、つーさん。聞こえるか?聞こえたら何か合図してくれ
・・・

妹を守ろうとするつーに、遠くからドクオの声が聞こえてきた。
小声なため、自分以外には聞こえていないだろう。
とりあえず頷いてみる。

俺が何とか委員長をつれて先生のところまで逃げる。その間の隙をつくって逃げること、できる?
・・・

どうだろう。
隙を作ることは出来る。このまま己の身を省みず突っ込めば良いだけだ。
だが逃げるのは難しいだろう。

・・・まぁ、いっか

逃げるのは難しいが、妹が助かるなら別に良い。
だから、大きく頷いた。

・・・よし。3カウントで飛び出す。出来るだけ急いで委員長をつれてくから、がんばってくれ

つーは頷いて返事する。
ドクオがカウントを開始する。兄者と弟者はもうすぐそこだ。
3。自分のダメージを確認する。
2。大丈夫。まだ戦える。
1。サーベルを握りなおし、呼吸を整え、軸足に力を込める。

・・・ん?
かかって来る気か?

0。迷わずに踏み込んだ。
同時に、ドクオが駆け出すのが気配でわかる。

委員長!動けるか!?
す、こしなら・・・!
よし、肩につかまれ!逃げるぞ!

戸惑うしぃの腕をとり、半ば無理矢理に連れて行く。
しぃの体は軽かった。
足がうまく動かないしぃの体を抱き上げ、ドクオを後ろを振り返らずに駆け出した。
ステージの幕を抜けた先、ショボンと内藤がいるはずの運動ホールへ向けて。

はなして・・・ドクオ君・・・
はなしたら戻るんだろ!はなすかよ!
姉さん・・・置いてけない・・・
置いていくんじゃない!先生と内藤を連れてけば助けられる!

ステージから飛び降りる。
背後で金属の破砕音が聞こえたが、聞こえない。聞くわけにはいかない。
この先、ほんの数十メートルのところに先生と内藤がいるのだ。
立ち止まる暇があれば、一秒でも早くこのことを伝えなければならない。

だが、その数十メートル先、薄く指す月光で青く染まった運動ホールで。
白刃が舞っていた。

その敵は、突然現れた。
音も立てず、気配もさせず。
ショボンも内藤も、間合いに入られるまで気付かなかった。
気付いたのは、その敵が腕を振りぬいた後。
ショボンの腹から肩までが切り裂かれた後だった。

・・・っ!?
んぁ?
・・・痛いのは嫌いなんだけどなぁ・・・油断した・・・か・・・

呟きながらショボンが仰向けに倒れていく。
呆然と見ているしかない内藤の中で、受け継がれた知識が、動けと警鐘を鳴らす。
半ば無意識で跳ね上がった内藤の右手が、続く第二刃を受け止めていた。
右手の守護手甲ホライゾンと敵の刃が押し合う。

・・・!敵っ・・・!

右手を突き出し、相手のバランスを崩す。
だが、ショボンを切り裂いた黒い影は豹のようなしなやかさで後ろに回転し飛びのいた。
敵を観察する。
体を覆う漆黒のラバースーツ。体に巻きつけられたベルトに投擲用の短剣。
長くはないが女性的な髪に、胸の小さな膨らみと曲線的な体のライン。
敵は、女だった。

・・・仕損じたか
アーミーナイフ・・・あんたもロシアの人かお?

女はナイフを構える。
その眼光だけで、相手の実力が伝わってくる。

そうだ。弟が世話になったらしいな、内藤とやら。私は姉者、自己紹介したばかりで申し訳ないが、死んでもらうぞ

姉者は間髪入れず、ベルトの投擲ナイフを引き抜いた。
同時に投げられた4本の投擲ナイフを叩き落す。
その一瞬、投擲ナイフに気をとられたほんの一瞬で、姉者は内藤の背後に回りこんだ。

―――っ!!

アーミーナイフが首筋に迫る。
自分の首筋から血が噴出す図を想像して、内藤はぞっとした。
だが、ナイフは首筋、頚動脈一歩手前で止まった。
ナイフと、ナイフをもつ姉者の手が震えている。

・・・なんだと・・・

姉者の腕を、横からショボンが掴んでいた。

いやぁ・・・俺の肌に傷をつけるとは良いナイフだよ、まったく
先生!?
よいしょ
な・・・っ!?

姉者を掴んだ手を、野球の投球のように振りかぶる。
ショボンの視線の先は、体育館の壁。

ふんっ!

姉者が抵抗する暇もなく、ショボンは思いっきり壁にむかって姉者を投げた。
女とはいえ人間を投げたというのに、姉者の体は減速せずに壁にむかって近づいていく。

ちっ!

だが壁に叩きつけられる前、姉者は空中で回転し壁に”着地”した。
銅鑼をならしたような音と共に、体育館の木造の壁が砕ける。

化け物め・・・
・・・
どうした、内藤。あんまり見つめるな
いや、先生・・・斬られたんじゃないのかお?
ああ、あれこそ精神コマンドど根性・・・
精神コマンド!?
と、なにかで見たんだが何だったかな
ホルダーじゃないって本当かおこの人?じゃないとしたら宇宙人だお・・・
弟者には脅威となる人間はそう多くないと聞いていたが・・・男、貴様何者だ
ただの教職員なんだが・・・最近よく聞かれるな
ふざけるなっ!

姉者が疾走する。
眼光鋭く迫る姉者に身構えるが、姉者は途中で後方に飛びのいた。
ステージのほうから声が響く。

先生っ!!
・・・新手か。雑魚が何人いようがかまわんが化け物がいるからな・・・ここは退こう

姉者はラバースーツの中に手をいれた。
小さな球体をとりだし、こちらに放る。

目的は果たしたようだからな

その球体は、映画でよく見るパイナップル型の手榴弾だった。

むっ!なんの、ショボンバリアー!!
そんなことも出来るのかお!?
出来るはずないだろうさっさと伏せろバカ!
ちょwwwおまwwww

雄雄しく叫んですぐに地面に伏せたショボンにならい、内藤も伏せる。
手榴弾が地面に落ちる音がして、すぐに爆音が響いた。
運動ホールに炎が踊る。
顔をあげると、姉者の姿は消えていた。

逃げたかお・・・
ちょ、大丈夫かよ!

しぃを抱きかかえて、ドクオが走ってくる。
しぃは顔をゆがめて苦しげに息を吐いた。

先生・・・姉さんが・・・
俺らのために足止めしてくれてるんだ!助けにいってくれ!
いくぞ、内藤
あ、あいさーだお!

内藤は話を聞くや否や走り出したショボンを慌てて追いかける
ステージに飛び乗りカーテンを開けた先には、誰もいなかった。
ただ折れたサーベルだけが転がっている。

誰もいないお・・・
・・・遅かったか

手がかりに逃げられたばかりか、つーまで消えてしまった。
おそらく連れ去られたのだろう。
だが敵にとっての目的は兄者の救出だったはずだ。
妨害してきたしぃとつーを攻撃するのはわかるが、本来なら連れ去らずにこの場で殺すほうが楽なはずだ。

連れ去ったんだろうが・・・妙だな
先生、なんか紙があるお

折れたサーベルの刀身が床に突き刺さっている。
刀身は、一枚の紙を突き留めていた。

”兄者が気に入ったようだからこの女は預からせてもらう。助けたいならまちBBS北海道板にある流石商事のビルに行くことだ。何か良いことがあるかも知れんぞ”

北海道だと・・?
先生・・・つーさんは?

ステージに上ってきたドクオに、ショボンは静かに首を振る。
ドクオは何もいわずに思いっきり壁を蹴った。

どうするんだお、先生
まぁ・・・助けに行くしかないだろうな
当たり前だ!今すぐ追いかけようぜ!
落ち着け。敵も北海道まで行くのには時間がかかる。今日は休むんだ
な・・・先生!
それともしぃを放っていくか?北海道に行くのはわかったが敵が今どこにいるかはわからないんだぞ
・・・

ショボンのいう事は正しかった。
わざわざ置手紙を残していったあたり、敵にも何か企みがあると思って間違いないだろう。
ならば、流石商事とやらで何か仕掛けてくるはずだ。
それまではつーを殺す、などという事はしないだろう。

今日は全員家に帰れ。明日出発するぞ

学校を出て、校門前に戻る。
しぃさんはショボンが抱きかかえていた。
ショボンがつーを助けにいったのを見て、安心して眠ったらしい。
後で報告を聞いてどんな顔をするだろう。
校門前ではギコがコンビニの袋をもって立っていた。

・・・しぃ!?ショボン、何があった!つーはどうした!?

コンビニの袋を取り落としてギコが駆け寄ってくる。
しぃを受け取って、しっかり抱きしめると、まるで自分が怪我をしたような顔でしぃの顔を覗き込んだ。
ギコはそのままショボンから話を聞き始めた。

そう、か。敵の戦力は足したことないだろうって油断しちまったな
面目ない
いや、誰かの責任じゃないだろうさ。・・・そういやコンビニで飲み物買って来たんだ、落としちまったけど飲んでくれ・・・
・・・どうもだお

内藤はコンビニ袋を拾い上げて、缶コーヒーを配る。
暖かい缶コーヒーを飲みながら、明日の確認をすると、それぞれが帰路についた。

内藤は一人帰り道を歩いていた。
思えば、ツンがさらわれてから一日もたっていない。
だというのに、もう数日もたったような気がした。
朝おきたら自分の部屋で、またいつもの妄想だったテレポートかとも思う。
だが、この肌寒さは本物だった。
別に気温が低いわけではない。
いつもの帰り道だが、いつも同じ帰り道を歩くツンがいない。
それだけで、とても寒かった。

ツン・・・まってるお。手がかりを見つけて、必ず助けるお

幾千も見た夢のように。
今度は、現実で。